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高齢者の引越し、時間が読めない

高齢者の引越し、時間が読めない

定義

高齢者の引越しとは、65歳以上の顧客が高齢者施設への入居、子との同居、単身での住み替えなどを理由に行う引越しを指す。この層の顧客は増えている。単身高齢世帯は30年間で5.6倍に増え(総務省統計局)、85歳以上の高齢者における介護を理由とした住み替えも増えている(内閣府経済社会総合研究所 2024年の研究)。この種の引越しの特徴は、荷物の量では測れない点にある。荷物は一般家庭より少なくても、作業時間は短くならない。時間の大半は、引っ越すかどうかを決めるために使われる。

時間はどこに消えるのか

一般の引越しでは、作業のテンポは荷物の量で決まる。荷物が多ければ時間がかかる。高齢者の引越しは荷物の量では決まらず、判断の回数で決まる。

物を一つずつ確認することになる。戸棚の衣類、引き出しの書類、壁の写真。その一つひとつについて、残すか捨てるかを顧客自身が判断する。判断がつかない物が大半を占めれば、現場は手を止めて待つことになる。家族が同席していなければ、顧客は電話で確認する。一本の電話が数分を奪う。当日の朝に「これはいらない」と決めた物が、積み込みの直前になって「やはり持っていく」に変わることもある。

これは顧客が協力的かどうかの問題ではない。高齢者にとって引越しは、介護や健康の衰え、配偶者との死別といった出来事と結びついていることが多く、荷物を選別することの重みは引越しそのものより大きい。現場が向き合わなければならないのは、引越し会社が最も不得意な部分、すなわち人の決断を待つことである。

荷物は少ないのに作業時間が長くなる、高齢者引越しの時間構造を示す概念図
図1:荷物は少ないのに、作業時間は長い

見積もりが合わない理由

見積もりの基準は荷物の量、距離、人数である。この三つのどれにも「意思決定の時間」は含まれていない。

一般家庭を基準にすれば、荷物が少ないほど時間は短いと計算され、見積もりは自然と低く抑えられる。実際に作業すると、人数も時間も見積もり時の想定を超える。超過分は回収できない。相手は施設への入居や介護を必要とする状況にあり、追加費用を切り出しにくい。結局は会社が負担することになる。

厄介なのは、こうした案件が記録に残らない点である。当日に作業時間が超過した、人員を多く割いた、追加費用を受け取れなかった。こうした情報を案件に記録しておかなければ、翌月には「最近は忙しいのに利益が増えない」という漠然とした感覚しか残らない。どの案件が赤字で、どこで損失が出ているのかを説明できない。

高齢者の引越しは偶発的な出来事ではない。単身高齢世帯は増えており、介護を理由とした住み替えも増えている。この種の案件はますます増えていく。一般家庭の見積もり基準のまま受ければ、拡大し続ける需要を、拡大し続ける損失に変えてしまう。

見積もりの基準に判断の時間が含まれていないことを示す概念図
図2:見積もりの基準にない「判断の時間」

どう管理するか

まず取り組むべきは、時間を記録することである。高齢者の案件では、作業に実際どれだけの時間がかかったか、何人で対応したか、途中でどれだけ止まったかを案件に記録する。1〜2四半期分を記録すれば傾向が見える。同種の案件の時間がどの範囲に集中するか、どの工程で最も止まりやすいかが分かる。この範囲があれば、見積もりの根拠が生まれ、一般家庭の基準を当てはめる必要はなくなる。

次に、付随サービスを同じ見積もりに載せることである。高齢者の引越しは、大量の不用品を伴うことが多い。顧客はこうした物の処分に困っており、その処分の需要は引越しの現場で発生している。不用品回収のようなサービスを、見積もりの段階から一緒に提示できれば、作業時間の超過分をこの収入で覆うことができる。

三つ目は、見積もりの前にニーズを整理しておくことである。高齢者は何を運ぶのかをうまく説明できず、家族も同席しているとは限らないため、やり取りがここで止まりやすい。写真とガイド付きの質問によって、運ぶ物とニーズを一つずつ整理していく。荷物の取捨選択を作業当日に持ち越せば、スケジュールは必ず崩れる。見積もりの段階で範囲を決めておけば、現場で手が止まる回数を減らせる。

ERABU(写真とガイド付きの質問)

高齢者は自分の荷物を「だいたい」「だいたいこれくらい」と説明することが多く、見積もり前のやり取りがそこで止まりやすい。ERABUは写真とガイド付きの質問を使い、運ぶ物とニーズを一つずつ整理し、あわせて提案を行う。整理された荷物の情報と引越しのニーズはERAIシステムに連携され、見積もりとその後の作業手配はこの情報をそのまま使う。顧客は記憶を頼りに説明する必要がなく、会社も電話の断片から推測する必要がない。やり取りが滑らかになれば、信頼感はこの段階で生まれる。

ERABUが写真とガイド付きの質問で高齢者の荷物とニーズを整理しERAIに連携することを示す概念図
図3:ERABUで写真と質問からニーズを整理する

ERAI Moveの案件管理

ERAI Moveの案件管理では、高齢者案件の作業時間、人数、付随サービスの収入をまとめて案件に記録できる。同種の案件で実際にどれだけ時間を使い、付随サービスでどれだけ収入を得たかは、案件を開けば分かる。見積もりは「一般家庭を基準に概算する」ものから「自社の過去の実績データで計算する」ものに変わる。

まとめ

高齢者の引越しでは、時間は判断の回数に応じて変動し、荷物の量には連動しない。見積もりの基準にこの項目がなければ、荷物が少なく、時間が長く、代金を回収しきれない案件が生まれ、しかも記録に残らない。作業時間を記録すること、見積もりの前に写真と質問でニーズを整理すること、付随サービスを同じ見積もりで受けること。この三つによって、拡大し続ける高齢者の需要を、損益を計算できる業務に変えられる。
 

よくある質問

Q:高齢者の引越しは、本当に一般の引越しより時間がかかるのか?

A:荷物の量は少なくても判断の回数は多い。一つひとつの物について顧客が残すか捨てるかを確認し、途中で止まる時間や家族と相談する時間が作業時間を占める。違いは作業の中身から生じるものであり、作業の速さとは関係ない。

Q:見積もりはどう出すべきか?

A:まず同種の案件の実績時間を基準に出す。荷物の量と距離で一般の基準を当てはめるのはやめる。このデータは自社で蓄積する必要があり、1〜2四半期分を記録すれば参考にできる範囲が出る。

Q:追加費用は受け取れないのか?

A:受け取れるが、条件を見積もりの段階で明示しておく必要がある。当日に急に追加を伝えても、相手が施設への入居や介護を必要とする状況では切り出しにくく、最終的に会社が負担することが多い。

Q:荷物の取捨選択は誰が決めるのか?

A:顧客と家族が決めるしかなく、引越し会社が代わることはできない。できるのは、判断の時点を見積もりの段階に前倒しし、作業当日に現場で待つことを避けることである。

Q:顧客の荷物が少ないなら、安く見積もればよいか?

A:荷物の量で値下げしてはならない。この種の案件の作業時間は判断で決まり、荷物の量では決まらない。一般家庭の基準で安く見積もれば、作業した時点で赤字になる。

Q:こうした需要は今後も増えるのか?

A:単身高齢世帯は30年間で5.6倍に増え(総務省統計局)、85歳以上の高齢者における介護を理由とした住み替えも増えている(内閣府経済社会総合研究所 2024年の研究)。これは構造的な増加であり、短期的な変動ではない。